学生時代は落語研究会におりました、くろーるです。
古今東西、怖いからこそ聞きたくなるのが人間の性(さが)というものです。
落語の演目の中には、不可思議で奇妙な世界を演じた演目があります。
今回は、面白さに重点を置きながら、想像すると恐怖を感じる演目をご紹介します。
恐怖度軽めの怖がりな方や子供向けです!
落語演目の紹介順番は、本編の長さ順になっています。

怖いけど面白い!!
もしも、お菊の井戸がエンタメだったら?落語「お菊の皿」

お菊さんの幽霊が出るという井戸へ肝試しに行くことになった若い衆。9枚目の皿まで聞いたら死ぬという噂がありました。ところが、井戸から出てきたお菊さんは、話に違わぬ超美人。9枚数え終える前に帰ってくればいいと、若い衆は毎日通うことになります。噂が噂を呼んだお菊さんの井戸はお客さんで大盛況。拍手喝采の中、お菊さんは今日も皿を数え始めます。いよいよ9枚目の皿が近づき、急いで帰ろうとするも、お客さんが多すぎて出られません。9枚目が過ぎ、10枚、11枚・・・。いつまで経っても皿を数える、そのワケとは?
本編時間 | 約15分 |
怖さ度 | ★☆☆☆☆ |
笑い度 | ★★★★★ |
怪談『番町皿屋敷』をベースとした、笑える怪談話です。
お菊さんをわがものにしようとした主人が高価な皿を隠した上でお菊さんを責め、死なせてしまったことで化けて出てくる話はお馴染みです。
そのお菊の井戸がエンタメとなったら?という設定が落語「お菊の皿」なのです。
お菊さんライブが開かれる後半は、落語家さんによって盛り上げ方に違いがあります。
自分の好みの演者さんを見つけるのも楽しいかも。
何気ない風景に隠れた恐怖を信じますか?落語「幽霊の辻」

堀越村に手紙を届けることを請負ったものの、道先がわからないため通りすがりの茶店のおばあさんに聞いてみることにした男。おばあさんが親切に堀越村までの目印を教えてくれるものの、水子池やら獄門地蔵やら首括りの松だの恐ろしい言い伝えばかり。陽も暮れかけて、恐る恐る道を辿ってみるも、怖いことなどひとつも起こりません。単なる言い伝えかと思い、首括りの松までやってくると、松の陰から若い女が飛び出してきます。幽霊じゃないことに安心していると、その若い女が言うには・・・
本編時間 | 約20分 |
怖さ度 | ★★★☆☆ |
笑い度 | ★★★★★ |
落語は主に昔から語り継がれた古典落語と新しく作られた創作落語に分かれます。
落語「幽霊の辻」は、昭和に作られた創作落語に分類されている演目です。
そのため、今では知られない言葉などは少なく、聞きやすくなっています。
道案内の目印には、「水子池」「獄門地蔵」「父追い橋」「首括りの松」とあり、その由来は恐ろしいものばかりです。
その由来話を軽いタッチで話すおばあさんが、とっても愉快です。
怪談話と笑いの繰り返しがテンポよく続きますので、見心地・聞き心地の良い演目といえます。
子供が怖がるほどの話はありません。
笑いだけでは終われない後味の悪い落語「首提灯(くびぢょうちん)」

気持ち良く飲んだ帰りに辻斬りが出るという通りにさしかかった男。ふと侍に声をかけられるも、田舎から出てきたばかりで江戸が不案内のため、道を教えろといわれます。その高圧的な態度に、酒の勢いもあって、男は侍のことを罵ってしまいます。腹を立てた侍は切り捨ててやる!と脅してきたものの、そのまま立ち去ってしまいます。ホッとした男は、そのまま女郎屋へ向かいますが、何かいつもとは違うことに気がついて・・・
本編時間 | 約20分 |
怖さ度 | ★★★★☆ |
笑い度 | ★☆☆☆☆ |
笑い度を下げる落語って何?って思うかもしれません。
それくらい自分の中では、後味の悪い落語のひとつが「首提灯」です。
剣の達人に斬られると、斬られたことを気付かないほどの鮮やかさなのはわかります。
しかし、斬られたことを気付かないまま女郎屋へ向かう男には、滑稽さよりも絶望感を感じずにはいられません。
生きたまま、すでに死人となる運命が見えていることに悲壮感しか感じません。
落語「首提灯」全編を聞いただけでは、笑っていられますが、聞いたあとにこの男のことを思うと、ジワジワと恐怖が増してくるのです。
見てないものを見てるといわれる冤罪の行方は?落語「天狗裁き」

居眠りをしていた八五郎が奥さんに起こされると、夢を見ていただろうから、夢の内容を教えてくれといわれます。夢を見ていた覚えのない八五郎は、見ていないと答えるものの、自分に言えないような夢だったのだろうと奥さんと喧嘩になってしまいます。喧嘩を止めに入った隣の熊さんにも夢を教えろと問い詰められます。見てもいない夢の話のいざこざは、奉行所沙汰にまで発展。ついには、その様子を見ていた天狗にまで、教えないと殺すと脅されてしまった八五郎の運命はいかに!?
本編時間 | 約25分 |
怖さ度 | ★★☆☆☆ |
笑い度 | ★★★★☆ |
落語「天狗裁き」の面白さは、同じことがループするところ。
誰もが八五郎を助けに入ったと思いきや、結局は夢の内容を聞きたがるところです。
見ている人も予定調和の笑いを楽しむことができ、子供から大人まで笑える演目といえます。
大筋は八五郎が見てない夢を見たといわれることのため、楽しく見ていられます。
最後のところで、天狗に八つ裂きにされる直前までいくところに少々の怖さポイントがあります。
でも、本当の怖さはそのあとのオチにあり、オチのあとの八五郎の顛末を考えると恐怖が募ってきますね。
来てほしくもありほしくもない亡者の恩返しの上方落語「骨釣り」

旦那の釣りにお供した太鼓持ちが釣り上げたのは、魚ではなく髑髏でした。旦那に言われるがまま、身元もわからぬ髑髏を供養してやります。するとその夜、供養の恩返しにとやってきたのは、美人の女幽霊だったのです。それを見ていた隣の男が、自分も女幽霊に世話にしてもらおうと、骨釣りに出かけます。そこで拾った髑髏を供養して、家で待っていると、戸の外から男の声がするのです。その声の主を家に招き入れて事情を聞いてみると・・・
本編時間 | 約25分 |
怖さ度 | ★★☆☆☆ |
笑い度 | ★★★★☆ |
落語「骨釣り」と同じものを題材にした落語「野ざらし」という演目があります。
「骨釣り」は関西を中心として演じられる上方落語の演目で、「野ざらし」は東京を中心として演じられる江戸落語の演目です。
あえて、上方落語の「骨釣り」を選んだのは、しっかりと亡者が出てくるからです。
髑髏の正体である女幽霊、そして、男幽霊の正体は石川五右衛門なのですが、それぞれ恩返しにやってきます。
「野ざらし」には、そのシーンが語りだけで、男の釣りのシーンの面白さに重点を置いている点が違います。
怖さ度は高くはありませんが、おどろおどろしく演じる必要も点が、個人的には評価が高い部分です。
次々に登場する妖怪にワクワクする落語「化け物使い」

何人もの奉公人が辞めてしまう、人使いが荒いことで知られる男がいました。その男が引越し先に選んだ家は、近所でも有名な化け物屋敷。「化け物が出るなら」と最後の奉公人まで辞めてしまう始末。ひとりになった男のところへ早速、化け物が現れます。ひとつ目小僧に大入道にのっぺらぼう。男は怖がるどころか毎夜出てくる化け物に用事をいいつけます。次にやってきた狸がいうには・・・
本編時間 | 30分 |
怖さ度 | ☆☆☆☆☆ |
笑い度 | ★★★★☆ |
有名な妖怪が次々に出てくるだけで、ちょっと気持ちがワクワクする落語「化け物使い」。
子供たちにもウケのよい演目です。
前半は、奉公人と主人との掛け合いがほとんどですが、後半は妖怪が登場するも基本はひとり芝居。
妖怪を上手に使いまわすところが愉快なので、怖さは一切ありません。
妖怪たちを従えてしまうのですから、やっぱり一番怖いのは人間なのかもしれませんね。
まとめに:星新一のショートショートのような落語を楽しむ
妖怪や怪談話は、子供から大人まで興味を惹くものです。
その中でも、笑い要素が多くを含みながら、ちょっと不気味な、不思議な世界を見せてくれる落語を集めてみました。
単純に笑い飛ばしてしまうのもよいですが、実際の光景を想像すると、かなりゾッとするものもあります。
星新一のショートショートのような世界観を楽しんでいただけたらと思います。